感想つぶやきdiary

漫画、アニメ、ラノベ小説などの感想的なものをつぶやきます。漫画や小説はBLものが多めになるかと。

『緑土なす-きみ抱きて大地に還る』 感想

『緑土なす-きみ抱きて大地に還る』 みやしろちうこ 著/user イラスト

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緑土なす きみを抱きて大地に還る

≪あらすじ≫
王族に死をもたらす〝王室病〞にかかった今世王レシェイヌ。王族命の家臣一族「灰色狼」は足弱も王室病に感染することを怖れ、無理やり隔離する。「看病したい」と足弱がどんなに抗っても、今世王と灰色狼の意志は揺らがなかった。 だが、今世王の病を知って、ラセイヌの支配に野心を燃やす男がいた。大臣カゴノオ家の長子アルゲは卑劣な手口で、灰色狼たちの手から足弱を拉致する。足弱を想い病と闘う今世王、監禁された足弱、命を賭けて王族を救おうとする灰色狼の運命は!?

 

★ここからネタバレ含みますので、お気を付けください。

 

前作にてレシェイヌが王室病を発症してしまう、という衝撃的な展開を迎え、つづいた続編の今作は、涙なくては読めませんでした。
離ればれになり、手紙を交わしあう王族二人、だんだん弱っていくレシェイヌ、それを見守る灰色狼たち、その描写に胸を締め付けられます。
日を追うごとに食欲もなくなり、手紙も書けなくなり、衰弱していく一方の今世王に、足弱は、自分だけに効く異能の力でうまれた特殊な薬草「オマエ草」を飲むようにと、侍従長の命さんを遣わして伝えさせます。
オマエ草は、足弱以外が飲むと、とても苦くて不味くて耐え難いとのこと。
それでも、自分を愛しているなら飲め、と敢えて足弱はレシェイヌに飲ませようとします。
ラフォスエヌ(足弱)命の弟は、そこまでいわれては引き下がれません。
仕方なく不味いオマエ草を飲みます。すると、あまりの不味さに、何にも口にしたがらなかった今世王は、口直しの何かを求めます。
そこですかさず侍従たちは、はちみつなど栄養価のあるものを一さじでも飲んでもらおうと差し出します。
結果、「オマエ草」自体の効果と、副作用的に少しでも口に栄養をいれるようになったことで、絶望的と思えた状況から、今世王は復活しました。

しかし、レシェイヌと会えない辛さを我慢して遠くから見守る足弱に、宰相の息子で謀反を起こして王家を乗っ取ろうと企むアルゲの魔の手が迫ります。
灰色狼たち近衛兵と侍従たちが必死に逃がそうとしますが、あえなく捕まってしまいます。
そして、そんな囚われの足弱にひたすら献身をそそぐ「コク」の存在も、この巻の見どころです。
コクはアルゲの屋敷に潜入していた灰色狼で、使用人として虐げられていましたが、足弱の世話係になります。
制約の厳しい中、コクは献身的に足弱のために仕えます。
たくさんいる灰色狼たちですが、王族が二人しか残っていない今では、実際に王族のそばでお世話できるのは一握りの人数です。しかも、潜入部隊はいつなんどき、起こるか起こらないかわからない非常時のためだけに長年潜入生活を耐えてきました。
コクは、長年の辛い潜入生活が報われたかのように、心の中では歓喜に震えながら、見た目には冷静を装い、足弱の身の回りのお世話をたんたんと、細やかな気配りをもってこなしていきます。
足弱も、灰色狼とは知らさらていませんでしたが、なぜか自分に一生懸命に仕えてくれるコクに感謝し、何とか監禁生活を生き延びます。
しかし、アルゲに結婚を迫られて絶望した足弱は、自らアレルギーのあるイツシン海老を食べて、瀕死の状態になってしまいます。
そんな足弱の覚悟を見て、コクは必死に看病し、回復後は決死の覚悟で兄上様(足弱)を連れて脱出を試みます。
いざ脱出する際に、敵方最強の剣士と思っていた「ヤク」がこれまた潜入していた灰色狼であることがわかり、多勢の中を3人の脱出劇が始まります。
二人の狼たちが頑張りますが、さすがに人数の差が大きすぎて、どんどん追い詰められます。
そこへ今世王が率いた灰色狼の近衛軍が駆けつけて、足弱は無事救出されます。
そして、今世王との再会シーンは、読んでるこちらまで、感無量でした。

 

しかし、これでめでたしめでたしで終わらないのが、この作品です。

今世王が病から復活し、二人の日々が戻ってきたところで、足弱が住んでいた山小屋の様子をみがてら、西に御幸巡行することになりました。
そして、山小屋に着いた今世王や灰色狼たちは、その人まして王族が住んでいたとは思えない廃墟の様に胸がえぐられる思いをします。
でも、足弱にとっては住み慣れた故郷で、だんだんと昔の生活に戻りはじめ、都に帰るのを拒むようになってしまいます。
今世王は、兄の心を思って無理強いはせず、自ら一緒に帰ると言ってくれるのをひたすら待ちます。
ところが、足弱は頑なになる一方で、ついには雪が降り始め、限界が訪れます。
今世王は、足弱が抵抗できなくくらい抱きつぶして、強制的に連れて帰らせようとします。
ぼろぼろの小屋で暴れる足弱を抑えながらの行為に、ついに小屋が崩壊してしまいました。
すると、崩壊した小屋から、小箱がみつかり、そこには王族しか許されない黄色い生地の立派な子供服が出てきました。
老人が足弱を拾ったときに着ていた、先代の今世王が自分の子供に贈った服でした。
これを見つけたことで、足弱が正真正銘、行方不明になっていた庶子のラフォスエヌだということが証明されました。

 

足弱は、ずっと自分が王族である自信がなく、灰色狼たちに至れり尽くせり世話されて、贅沢な王宮暮らしに甘んじてよいのかと、ずっと葛藤がありました。

それでもレシェイヌの恋人という立場なので、ある程度は受け入れていましたが、今回自分がラフォスエヌであるという証を手にしたことで、やっと自分が王族であることを受け入れられるようになりました。

このあたりの心情の変化の機微なども、本当に計算されていて素晴らしいな、と思います。

じれったい気持ちもありながら、足弱のそういった心の成長に、灰色狼の気持ちに共感するように、思わず兄上様~!と感動してしまいました(笑)

長編作品ですが、読み応えはありますので、ぜひよかったら読んでみてください!